ストラトにした時の話

念願叶い、月に一度はライブをするようになった頃。

友人作の接触不良ギターはホントに鳴らなくなったので修理するという発想もないまま次の楽器を考えた。
 
サンプラーとかに戻そうか、と思ったがギターを好きになりたかったので日本製のジャズマスターの新品をどこにでもありそうな楽器屋で手に入れた。
このギターは大変勉強になったし、たくさん弾きました。ありがとう。
 
後年使わなくなった頃、友人であるUT氏に貸した際へし折られ、詫びのつもりかよくわかんないストラトのヘッドを付けて返してきた。これには大変憤りを感じ、抗議したが前年に僕がUT氏の所有するRolandのビンテージシンセSH-101の鍵盤をライブでぶっ壊していたのでおあいことなった。
これにて氏とは「絶対に貸さないし借りない協定」が生まれた。
 
誤解がないように書いておくと氏は今も敬愛する年上の友達である。
 
前置き。
 
フェンダーの銀パネツインリバーブも手に入れてそろそろずっと使えるギターが欲しいと思っていたが当然お金はないし生活で手一杯。
 
加えてギターの知識もほぼ無い。全く無い。要は見た目とインスピレーションで選ぶ状態。
 
街で下見をしているとフェンダーなら大体20万円あれば何とかなるのか?という感じであった。途方もない金額に思えました。家賃だとかなんだとか。
ホントに物凄く貧乏だったし。
バイトも長続きしないし。
 
そんな事言ってもしょうがないので労働量を増やし、節約して20万には遠く及ばないが何となくローンで買う目処はたってきたように思う。僕の知るかっこいいギタリストはジャズマスターを使っていたのでここは違うものにしようと思った。
 
80年代製の黒のムスタングがカッコ良いなあと思い、試奏などしてみました。値段は割と安かったがあまり良いと思えず考え直したり。というか店員さんの話が多くて向き合えなかった。ギター選びより先に選ぶものがありそうな感じ。
(今思えばとても役に立つ話だった)
 
といったわけで福岡で1番気難しく、
高価という事で有名な個人店に行く事にしました。
客が追い返された話や、店主が中でご飯を食べてて店に入れてくれないとか色んな噂がある店でした。
 
詳細省きますがかなり個性的な店主で自由。客商売としては口も悪く、なかなかでしたが言っている事は真っ当だと思います。ただもう気難しい。
予算とフェンダーが良いという事を伝えると理由を聞かれ、的はずれな事を言うと一々訂正してくる。しつこいのだ。それでもどうにか65年製の水色のムスタングを勧めてもらい、弾いてみるととても良い気がした。時間がかかったが悩んだ末そのムスタングに決めた。20万。ニルバーナ的イメージが苦手だったが音にそんなもの関係ないので大変嬉しかった。
 
その日は大事に持って帰り、家で好きなだけ弾いた。生活が頭をよぎったが、誰も持ってない僕だけの一本という気持ちが勝りどうにか頑張ろうと思った。
 
次の日、今まで使っていた日本製ジャズマスターとの違いや、飛びやすい弦が飛ばない為の工夫だとかもう一度そのお店にお邪魔した。
 
昨日はあんなに聞けた店主の面白いようなイヤミなような、人を小バカにしたような話にも気が気でなかった。
 
店主の真後ろに薄い緑色のストラトがぶら下がっていた。
 
用事が終わり、話も尽きたところで
僕は観念した。すみません触らせて下さい。店主はどうすんのと驚いていたが弾いてみるとこんな事があるのかというくらいマッチしてしまった。
 
もう何も考える事が出来ない。とにかく値段だけ聞いてみた。
 
店主は昨日の話で僕の財布事情を知っていたし笑っていたが段々と真に近付き、カスタムだの何だのと前置きを話した後で40万円である事を告げた。
 
本来、楽器なんか何でもいい、ダメなら工夫と練習すれば良いだけの事なので高価なものなんか必要ないはずだったがそんな話ではない。だけどまず買えるわけない。しかしこのままではいられない。
 
狭い店の中「1人にして下さい」と告げて席を立とうとしたが「わかりました」といって店主の方が店を出て行ってしまった。何だそりゃ。どこ行くんだ。いつ戻って来るんだ。
 
頭を冷やさせない事が高価なものを売るコツだと思うので店主の接客技術かと思ったが、かなりの変人なのでよくわからない。
 
1人、店に残されて1ストロークもしないままストラトを抱えて打ちひしがれていた。汗もでていた。店内には西陽が差している。
 
無論、昨日買ったムスタングも返すつもりはない。ムスタングがあってのストラトという連続した存在であった。
 
もちろん買わない事も出来たが
2時間後、僕は購入を決めた。買うと告げたら30万に値引きしてくれた。よくわからない、ありがたく受けたが、もう10万円の違いくらいどうでも良くなってきていた。
お礼は言わなかった。
何にもないのに2日で利息込み60万の生活必需品でない買い物をしてしまった。後悔とかではなくて怖くてしょうがなかった。
 
2度とこの店には来ない、と誓ったし事実行くことはない。
 
その後、その緑のギターはずっと僕と共にあります。途中で燃えたり落書きもしたりピックガードも割れてボロボロになっていたがもう掛け替えのない存在となっている。17年間使っているようだ。
 
去年ギューンカセットから1stを発表した際に機会があり、ボロボロになったストラトをメンテに出そうと思った。フレットの減りが致命的であったので。(MVはその時に撮ったもの。ギターがなかったので対照的な存在の?ゴールドトップのレスポールを貸してもらった。)
 
現在は簡単に色々お店を探せるので色んなところに聞きに行ったり、持って行ったりしたが何処にも断られてしまった。自分のとこの商品でないし、ネジ1つまともに回るかわかんないものは取り扱えないという当然の返事ばかりもらった。
 
中にはこれ本当にフェンダーですか?とか(知るかそんな事)
半年以上かかりますとか言われたし新品を進められたりした。新品も考えたが全く気に入らなかった。
もちろん良いギターはたくさんあった。
 
少しストラトの寿命も考えたり。
 
しょうがないので2度と行かないと誓った店にもう一度行くしかない状態となった。
 
17年ぶりに店に入ると客に興味が無いような、訝しんでるのかわかんない様な店主が相変わらずだった。
なんか知らないが店の床が水浸しだった。
 
当然覚えてない。
 
狭い店内でぶらついてもしょうがないのでフレットの打ち直しをやっているかどうか訪ねてみると「やらない事もないが、違う工場に出すし、トラブルの元になるからあんまりやりたくない。」
との事だった。店主相変わらずでこのままではラチがあかなかったのでギターを取り出したところ、ヘッドがケースから出たたけで「あ!」と言われ「あの時の!」と叫ばれた。
声にびっくりして手が止まったのだがギターの特徴をいきなりまくし立てられた。完璧に覚えているのでびっくりした。店主の顔のほころびがスゴかった。ギターの焼け後も責める事なくなんか知らんが楽しそうだった。
肝心のフレット打ち直しを尋ねると「やりましょう」との事だったのでホッとした。ここで断られたらもう寿命と考えるしかない様に思っていたので。
 
他にもダメになってる部分を洗い直し直ぐに見積もりを作成。今までの経緯からもう新品にしようか考えてる事も伝えたが「これより合うのなかったでしょ?」と一言で捨てられてしまった。正直おだてられてるのかとも思ったが嬉しいが先にたった。
期間はどれくらいかかるか?との問いに2週間でやる、順番変えてやってくれるとの事で何だかこんな人だったか不思議な気分になった。
 
調整の仕方はオーダーありますか?との事だったので全部普通でお願いします。標準的な感じでお願いしますと伝えた。
 
店の外に聴こえる店主のギターは昔はサンタナだったがこの日はレッドツェッペリンだった。