leave me alone

これはイケナイ、と思いたち

オレは車に乗り込んだ。


西へ向かうと海岸線があり、奥には水平線が横たわっている。


天気、お日柄も良く砂浜にはまばらに家族達が散らばっていた。


衝動的に飛び出してきたオレは海に入る準備も必要もなかったのでさらに西を目指した。


何がイケナイというのだ。


イケナイ、という事に間違いは無い。1人で考えこんで、気付いたらイライラしていたのでこんな物思いはイケナイ、と思いどうにかしようとした結果だ。1人イライラ発生機。


妙な危機感から何かをせずにはおられず飛び出して来たので海水浴場なんか来たらさらに危機感が増してしまった。リラクゼーションなんか必要ない。大きな海なども要らない。


さらに目指した西には全く何もなかった。滅多にこない、というだけの相変わらずな道だった。


いい加減に県境をまたいでしまい、少しは気分を変える気になった。

まだ聴けなかった数々の音源を聴いていたら少しは気が変わってきた。


楽器が弾きたくなってきた。どうしてオレはこんなところにいるんだ。

今すぐ家に帰りたいがやたら遠くまで来てしまった。


さすがにバカらしくなり、適当だけが加速していった。水産センターに入ったり、観光名所に行ったり、市場に入ったりしてみたがどこも5分とせずに出てきた。


大体が無益なのだ、やってみた事の一割だって成功しない。やってみたが後悔しなかった事はない。やってみたから後悔出来るというだけの事だ。


もう知らない道を知らないところへ向かっていると石仏群という標識が見えた。

家は一応仏教式ではあるが、いわゆる無宗教だ。正月くらいは有難がってやるくらいの事だ。


まだ少し迷い気味で、荒れている事が出来るオレはお試しの気分で初めて自発的に仏像を見る事にした。


オレは文化人気取りの鼻を利かせ道を辿る事にしたが面喰らった。

矢印通り進んだ先は山の上の大きな体育館だったのだ。


たくさんの学生達がバドミントンの試合を終えたところで保護者達と共に帰路につこうとしているところで

確かに坊主に違いない、と思ってしまった。バカにしてやがると感じたオレはまぶたの裏で全員を袈裟斬りに処した。


が、良く見ると体育館の横の小さな山道に矢印の続きがあった。また間違い、早とちりをしてしまったようだ。まぶたの裏に束なる死体に謝罪しお経をあげ、片手で手を合わせておいた。携帯電話をもっていたので。


標識に従い、山道の有り難い階段を降りたり登ったりを数回繰り返したところ、駐車場に出た。


すみません。今度からはこっちに案内して下さい。


とまれ、必要のない苦労をした先で

遂に石仏群に辿りついた。磨崖仏。数種、かなりの数の磨崖仏があり思わす見入ってしまった。


半洞窟状の形をしたその場所は岩の崖が屋根になり、7月であるのに冷気が地面に溜まっており、岩壁から飛び出た雑草や、所々密集しているコケが美しかった。1つ1つの仏像を見ていると何だか不安になり、まじまじと見る事が出来なかったがその半洞窟状になっている場所から脚を退け俯瞰して見ると、溜め息が出るような美しさ、凄まじさを覚えた。

その瞬間、そのたった一瞬だけとはいえ気になっている事、どうにもならない事などすべて忘れた自分に気が付いた。


来てよかった。