鳥は飛ぶ

23時を過ぎた頃、何もなく集まっていた僕ら4人は何かしようと思った。

 

大体にして1人ずつ何も無い人が順番に集まってきたのでスーパー何も無い状態になってしまった。幸いハイエースが一台と一晩遊ぶだけなら充分楽しい面子が揃っていた気がする。

 

とにかく適当にいるものを買い込み、市内から山の方へ向かう。

 

1時間ばっかり適当に進むとこの街はもう立派な田舎で左右に田園が広がって何も無い舗装された道、人気もないのだけれど夜に隠れる事もなく前方にマスクをした5.6人の集団がいた。

 

僕達の車に立ち塞がる格好。

ちょっとなかなか無い状況で、当然メッセージを送ってくるので車の横に回り込んだ連中相手に

少し窓を開けてみると意外にも

「お願いだから乗せてくれ」

との事。

運転していた奴は気の良い奴で徐行しながら逡巡していたが当然

「いいから行けって!早く!」

という僕達の声に従った。

バックミラーから消えて行く集団を見ながら少し僕らは興奮気味であったが数分もすると恐怖を笑いに変えようとどうでもよい会話と推測をしていた。

「何あれ?」「野球しに行くんじゃない?」「金属バット持ってたしやっぱ球児だよ」

そんな感じ。とにかく過ぎた事なので安堵しつつまた数分直進、

 

といったところで目の前に甲子園が現れてしまった。

 

補欠達よりも早く到着してしまった。

当たり前だ、乗せてくれと言う連中の先に行ったのだから。バカか。

 

およそ10人対10人、周りに何もない路上でものすごい乱闘が行われていた。全身全霊のマッドマックスである。

いや皆さんね、20人くらい別にって思うでしょ?大昔の何だ?戦争とかに比べればかなり小規模なわけで僕だってその場にいなかったらそう思います。でも一度観てみるといいですよ、想像するより凄い状態なんだから。逆マーライオンですよ。いや、何でもないです。

 

それで更にマズイのは集団が僕達に気付いて動きを止めたんです。完全に値踏みというか訝しむ形で。Uターンする幅も無いし戻ったとしても前述の未だ到達せぬ補欠と挟まれる形になるわけで僕達に出来る事はゆっくりと前に進む事だけ。

 

お互いの顔が確認出来る距離になると僕達が何者でもない、ただの温和で適当で貧乏でそれでいて太宰治も読んだ事のない、行く宛のない落第者だと悟ったのか道を開けてくれました。すれ違う瞬間は正に緊張の頂点で殺気と視線が僕らに集中している。僕が居合の達人ならば直ちに心眼に目覚め、切り捨てては刀の錆にしてやるとこだがそんな要素は無い。少しも無い。落第者である。

誰とは無しに車内では「目をあわすなよー、刺激するな」という言葉が聞こえた。運転手だけ苦笑いで会釈している。

中央抜けて魚群の端にかかる瞬間に耐えられなくなり「行け!ゴー‼︎ゴーだ!」と叫んだのを覚えています。

 

後ろを振り返ると即座に集団がもみ合う、という事はなかったのでもしかしたら連中は冷めてしまって分別ついたのかもしれない。

 

そうすると我々は何か1つ社会的に良い事をしたという事になる。

 

そのまま我々は県内有数のオカルトゾーンへ行き、あたりを伺った。

 

同じような目的の、目的のない数人がいたので車の助手席から発煙筒を取り出して着火し、

「おバケだあ〜!」と投げつけてやった。誰一人びっくりする人達はいなかったし夜なのに空気が白くなった。

 

羊達は沈黙していた。

 

無論、僕はそんな事しない。こいつはとんでもなく無鉄砲なヤツだ

先日なんかは皆が何かの理由でくたびれ果て、笑いが欲しくなっている時とはいえ、道路脇にお供えしてある花を手に取り僕らに差し出して、「みんなー、元気出して、綺麗な花だよー!」とのたまった。

 

冒頭にも書いたが一晩遊ぶだけなら笑えるが連続は無理。倫理的にも無理。

 

その後は近くに奇跡のような屋外温泉とお座敷の宴会場のようなところがあり、大いに楽しんだ。

 

数ヶ月後、余りに素敵だったので再訪するとそんなものはなかった。近隣の人に聞いてみても何の事かわからないようだった。

何だったのだろうか